『To the Moon』

リンカーン・ライムは、世間の人間を二種類に分類していた。旅をする人間と、到着する人間だ」

 

アメリカの推理作家ジェフリー・ディーヴァーが「エンプティー・チェア」で記した一文である。
さらに同著にはこうある「目的地よりも、旅そのものを楽しむ人々がいる」。

 

過程を楽しむか、結果に幸福を感じるかは人それぞれで正解はない。しかしゲームというメディアにおいては、結果ばかりが注視されがちである。
ゲームをクリアすること、エンディングをむかえることがステータスになり、どのようにむかったかを語る人はあまり多くない。

 

そんな中、2020年、過程にこそ価値があると強烈なメッセージを放つ作品と出会えた。
To the Moon』だ。

 

www.youtube.com

To the Moon』の舞台は近未来。人生の最後に思い残すことなく死をむかえさせてあげるための仕事に従事する2人を主人公にしたアドベンチャー
主人公の2人はマシンを使い、人の記憶にコンタクトし、少しずつ過去へと遡りながら記憶の奥深くに思い残した願いを探していく。

 

ゲームで描かれるのは、死の間際に立つジョニーという老人。この老人は「月へ行きたい」という願いを残して、昏睡状態になったのだ。
主人公の2人は彼が死ぬ前に、なぜ月へ行きたいのか、そして彼の一生はどのようなものだったのかを探る旅に出る。

 

『To the Moon』の面白いところは、老人の死という結末は最初から分かっている点ある。分からないのはむしろ過程のほう。
老人の幼少期はどんな生活をして、どんな友人を持ち、どんな恋をしたのか、一切分からない。それらを一つずつ紐解いていくと、やがて月へ行きたい理由という壮大なロマンが訪れる。

 

到着するゲームが悪いとは思わない。むしろ僕も大好き。しかしたまにはこうして、旅をするゲームに触れてみるのも悪くない。
『To the Moon』の主人公の1人、ドクター・ロザリーンも言っていた。「重要なのは結末じゃない。そこへ向かう一瞬一瞬が、宝物なの」と。この言葉を借りるなら、『To the Moon』は宝物だらけのゲームである。

 

f:id:yyumaa:20200325220532j:plain

 

ちなみのこの『To the Moon』はもともと、2011年にSteamで配信された作品で、それが実に9年の時を経て、Nintendo Switchに移植された。
すでにプレイした人からすると、「今さらこのゲーム?」と思うかもしれない。でもまぁいいじゃない。この9年間で出会ってきた他のゲームも『To the Moon』までの過程であり、宝物だよ。