King Gnu「CEREMONY」
その名を全国に轟かせた前作『Sympa』からちょうど1年のスパンでリリースされたKing Gnuのメジャー2ndアルバム。
まずたった1年で作り上げたことが今の音楽シーンから逆行していてすごいことだ。最近は2、3年かかるのが当たり前だし。
このアルバム最大の凄さは世間が思うKing Gnuの凄さをそのまま体現しているところだ。ポップミュージックにソウル、ヒップホップ、クラシックまで取り入れるミクスチャーロック。
そんなみんなの心の中にあるKing Gnuを、数々のタイアップソングとともに表現しきった。やりきったのだ。
もうひとつKing Gnuの特徴として、転調の多さが挙げられる。それがもっとも力強く発揮されているという意味で、僕は“どろん”でも“白日”でもなく、重々しい4つ打ちから華麗に転調を決めてみせる“飛行艇”こそがアルバムのハイライトだと思う。
宮本浩次「宮本、独歩。」
エレファントカシマシのボーカルとして、30年以上に渡り日本ロック開催重要人物として走り続けた宮本浩次のソロ初アルバム。そもそもソロとしてなにをやるのか、という疑問に満願回答を見せたアルバムだ。
全12曲中9曲がタイアップ曲で、中には椎名林檎や東京スカパラダイスオーケストラとのコラボ曲もある。
タイアップもコラボも、その中でいかに個性を出すかが課題になるが、聞けば分かる通り見事に宮本の曲になってる。“獣ゆく細道”を聞いて、「椎名林檎の曲」と印象を持つ人は、なかなかいないだろう。
こんなにもバラエティ豊かな楽曲をスマートに歌ってみせる宮本は、エレカシ時代はあまり考えられなかった、いや、タイアップ自体はエレカシのときもあったけど。だからこそ、“解き放て、我らが新時代”みたいな、いつもの宮本も強く光り輝く。
SHE'S「Tragicomedy」
フロントマンの井上竜馬が「心」をテーマに作ったコンセプトアルバム。タイトルの「Tragicomedy」は悲喜劇を意味しており、そのタイトル通り喜びも、悲しみも包み込んだ作品。
前作「Now & Then」における「Dance With Me」のような決定的なアンセムはないが、むしろアルバムとしてのバランスは高くなった。コンセプトアルバムに主役になってしまう楽曲は必要ない。
ピアノロックで優しさと哀愁を同時に表現した“Letter”、「戦いに負けようとも 続く道があるよ」とバンドの哲学を反した歌詞が印象的な“Your Song”。それも名曲だが、アルバムを構成するパーツとしても機能しているのが素晴らしい。
米津玄師「STRAY SHEEP」
思えば前作「BOOTLEG」は、米津玄師史上類を見ないほど外側に広がった作品だった。たくさんのタイアップ曲があって、菅田将暉や池田エライザ、そして戦友初音ミクともコラボして。
それから一転して新作の「STRAY SHEEP」は、ゲストボーカルとして参加したのは野田洋次郎くらい。むしろFoorin、菅田将暉へ提供した「パプリカ」「まちがいさがし」のセルフカバーを収録するなど、米津玄師個人にフォーカスを当てている。
外へ広がるのではなく、より内側へ。売り方としてはむしろ逆行していそうなこのアルバムがヒットを記録したことには大きな意義がある。米津玄師は米津玄師のままでいいのだ。
あいみょん「おいしいパスタがあると聞いて」
記事の冒頭、King Gnuの項で「アルバムの制作に最近は2、3年かかる」と書いたが、2020年に限ってはハイペースなミュージシャンが多かった。SHE'Sも、このあいみょんも2019年に続いてのアルバムリリースだ。
あいみょんの場合は楽曲のストックが数百区もあるというのだから、このくらいのペースは造作もないんだろうな。
自身が経験したすべての年代、すべてのジャンルを飲み込み、すべての感情を音楽に変換する。自分のものにしているからまったく揺るがない。この強度と靭やかさが如実に現れた名盤。
Vaundy「strobo」
僕は日本のミュージックシーンにおける天才は3人しかいないと思っている。早川義夫と中村一義と米津玄師だ。2020年に突如現れたVaundyは、ひょっとしたら4人目にカウントできるかもしれない。
若干19歳にして作詞、作曲、アレンジをすべて自分でこなす破格の才能。自分でこなすだけならほかにもいるかも知れないが、アルバムとして軸を作り、まとめ上げるセルフプロデュースの能力を併せ持つ人はまぁまずいないはずだ。
“灯火”の高揚感を煽るサビに始まり、ギターロックとしての“怪獣の花唄”、R&Bとしての“napori”、かねてからMVがバズっていた“東京フラッシュ”も含め、全11曲、たった36分の中で実に多彩な表情を見せてくれる。というか、この人の才能を見せつけるには、たった36分で十分なのかもしれない。
そしてアルバムの終盤“僕は今日も ”では「あなたはカッコイイから イケメンじゃなくてもいいんだよ」と歌う。
これって早川義夫が50年以上前に生んだ「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」と一緒じゃん。思想、哲学に至るまで天才のDNAが受け継がれている。やはり破格だ。
ЯeaL「ライトアップアンビバレンツ」
ЯeaLが3年前にリリースした前作「19.」のとき、ボーカルのRyokoは明らかに焦り、苛立っていた。それをすべて言葉に変換したのが、19歳の肖像たるアルバム「19.」。
3年経って22歳になったこのスリーピースバンドが生んだアルバム「ライトアップアンビバレンツ」は、とても大人になった。
モダンな言葉遣いは残しつつ、アレンジはギターサウンド一辺倒ではなくなった。メロディーに対する音が一つ一つデザインされるようになった。Ryokoのソロ名義での楽曲という飛び道具まで入っている。
10代のモラトリアムを抜け出して、今出来おることへの可能性を見出した22歳の肖像的作品。
宮本浩次「ROMANCE」
宮本にとって2020年2枚目のアルバムは、昭和から平成にかけての歌謡曲を集めたカバーアルバムだった。収録曲は松田聖子、中島みゆき、岩崎宏美など、女性シンガーのものがほとんど。
エレカシ時代から荒井由実の“翳りゆく部屋”をカバーしたり、“彼女は買い物の帰り道”という歌を歌ったり、女性目線を詩で表現することもあった。カバーアルバムではそんな、エレカシ時代にもあったけど、あまり出せなかった表現を全面に押し出している。
「あくびして死ね」と叫ぶ宮本も、「明日も頑張ろう」と励ます宮本もいない。54歳にして全貌を見せた、新しい宮本の姿だ。
サニーデイ・サービス「いいね!」
スミスの“The Boy With The Thorn In His Side”をイメージした1曲目から始まるサニーデイ・サービスのニューアルバム。
終始爽やかな演奏とザラザラとしたギターサウンドでサニーデイ・サービスらしさが随所に見られる。やってることはとても若々しく、バンドを知らない人が先入観を持たずに聞いても「いいアルバム」と言ってくれそうな仕上がり。
サニーデイ・サービスがデビューしたのは1995年。その後くるりやGRAPEVINE、中村一義、スーパーカー、トライセラトップスが相次いでデビューした。新たな世代が、新たな時代を作った時期だ。
25年が経って、解散するバンドもいれば、楽曲に変化が見られるバンドもいる。その中で、サニーデイ・サービスらしさを見せてくれたことがなによりも嬉しい。
サイダーガール「SODA POP FANCLUB 3」
2017年にメジャーデビューしてこれが早くも3枚目のアルバム。短期間でどんどん良くなるバンドの姿をダイレクトに反映した作品だと思う。
自ら「炭酸系サウンド」と表する音楽は健在で、爽やかな音が10曲も並ぶ。メロディーメイカーとしての彼らの才気を疑うのは難しい。
でもそれだけじゃない。ダンスチューンの側面を見せる“フューリー”やホーンセクションが新しい“クライベイビー”。なによりポップミュージックに意外性を持たせた“週刊少年ゾンビ”はサイダーガールを代表する一曲だ。