2019年3月、映画『空の青さを知る人よ』の製作が発表されたとき、まっさきに連想したのはTHE YELLOW MONKEYの“空の青と本当の気持ち”だった。ただ単にタイトルの雰囲気が似ているからだ。
“空の青と本当の気持ち”は、1995年にリリースされたアルバム『FOUR SEASONS』の収録曲。イエローモンキーにおける初期から中期にかけての名曲として知られている。ヒロインである“君”に向けて、「空の青と本当の気持ちを、君に見てほしくて」と歌う、そんな自意識と妄想が詰まった曲。
生々しいグラムロックと、少年の心を描く歌謡曲の中間点を射抜いた、当時のイエローモンキーを象徴するような曲だ。
“空の青と本当の気持ち”の後、バンドは“JAM”を歌い、“楽園”を歌い、国民的バンドへの道を突き進んでいくことになる。もう25年も前のことである。
『空の青さを知る人よ』の発表から数ヶ月後、今度は主題歌をあいみょんが手掛けることを知らされる。楽曲のタイトルは映画と同じ“空の青さを知る人よ”。とても良い曲だった。
「君が知っている空の青さを知りたい」と願う、少女の歌だった。
そんな“空の青さを知る人よ”も収録したアルバムが9月9日に発売される。タイトルは『おいしいパスタがあると聞いて』。
上述の楽曲以外にも、テレビドラマの主題歌があり、「映画クレヨンしんちゃん」の主題歌があり、さらに夜のニュース番組のテーマ曲まである。これだけでヒットメーカーとしての地位を確立したことは十分にうかがえるし、実際唯一無二の存在だと思う。
その一方で、あいみょんの魅力を一言で言える人は少ない。歌詞、メロディー、あるいはビートやアレンジ、佇まい。それらすべてにフックがあり、どこに引っかかるかは人それぞれなのだから当たり前だ。
でも、僕個人が考えるあいみょんの魅力なら一言で言える。
断定のダイナミズムだ。
あいみょんはいつだって、恋愛に、人生に、断定して力強く歌に昇華してきた人なのだ。
「君はロックを聴かない」と思いながら、少しでも僕に近づいてほしくて、こんな歌を聴かせて
「あした世界が終わるとしても」、君だけの居場所をつくってあげて
「マリーゴールド」に似てる君を、いつまでも離さないと断言して
あいみょんとはそういう人なのだ。
しかし『おいしいパスタがあると聞いて』に収録されるシングル曲はちょっと違う。
ドラマや映画とのタイアップがグッと増え、劇中の登場人物に寄せた歌詞が多くなっている。もっとも象徴的なのは、やはり“空の青さを知る人よ”だ。
「君が知っている空の青さを知りたいから、追いかけている」と歌うこの曲は、最後に「届け」と願いを込めるところで終わっている。
追いついてもいないし、届いてもいない。これがおそらく、本作におけるあいみょんのスタンスなのだ。
振り返ると、イエローモンキーのアルバム『FOUR SEASONS』において“空の青と本当の気持ち”は、ラストを飾る曲だった。だから残念ながら、この物語を続きを知ることはできなかった。
一方、あいみょんの『おいしいパスタがあると聞いて』における“空の青さを知る人よ”は、全12曲のうち8曲目。物語の続き、「届け」という願いの続きを想像するには十分すぎる構成だ。
空の青さの先にあるものはなにか、あいみょんの新しいスタンスは、どんな着地点を見せるのか。
あいみょんは底知れない才能の持ち主だ。だからこちらも、底なしの期待をもってアルバムを迎えたい。