迷える羊

「迷える羊」というのはそもそも、キリストの聖書に載っている譬え話だ。ある羊飼いは100匹の羊を飼っていた。しかしある日、100匹のうち1匹が群れからはぐれてしまう。

羊飼いはそのたった1匹を血眼になって探し、見つけたら、喜んでその羊を担いで、家に帰り、友達や近所の人々を呼び集めて、「見失った羊を見つけたので、一緒に喜んでください」という。

つまりこれは、神から離れてしまった人の救済なのだ。
そして、神が元来持つ愛の譬え話でもある。


羊は群れからはぐれると、立ち往生して餓死してしまう。そんな羊を救う愛。

残した99匹の羊を置いていけば、狼に襲われるかもしれない。しかし99匹の羊と1匹の羊の命を天秤にかけることなく探しに行く打算のない愛。


そして見失った羊を見つけ出したことを皆と喜ぶ、分かち合う愛。

これが聖書における「迷える羊」で語られていることだ。

 


米津玄師である。
約2年半ぶり、5枚目のアルバムがついに、8月5日にリリースされる。

この2年半は説明不要なほど、破格の道を歩んできた。代表曲の「Lemon」の再生回数は5億を超え、それ以外の楽曲も1億を超えるのが当たり前。
まず、YouTubeの再生回数が音楽においても人気のパロメータになることを確立した。CDの売上、ダウンロード数、そんなものとはまったく違うところに価値を生み出した。今までの格付けを破壊したのだから、破格という言葉ほどピタリとくるものはない。

再生数に比例するように、世間の扱いも神格化していった。発表される楽曲、一挙手一投足がまるで神のお告げのように扱われた。

しかしその実、とても人間臭い。
”Flamingo”はポップソングの中にファンクサウンドと演歌のような歌い方、咳払いなどのサンプリングを混ぜ合わせた、デビュー当時から見せる遊び心を詰め込んだ作品だ。
”TEENAGE RIOT”は米津が中学生の時に作ったメロディーを使っている。”馬と鹿”はTVドラマ、そして”海の幽霊”はアニメ映画に寄り添って作られたものだ。”パプリカ”はNHKで「みんなのうた」にもなった。

歌と存在感に、乖離が見られた2年半でもあったのだ。

果たして米津玄師というミュージシャンは神なのか、それとも米津玄師自身もまた「迷える羊」たる人なのか。
5枚目のアルバムには、そんな答えがある気がしてならない。

「STRAY SHEEP」
迷える羊、これが米津玄師、5枚目のアルバムタイトルだ。

 

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